最近、「マイクロスコープ導入!」をアピールする歯科医院が増えてきました。マイクロスコープというのは、高倍率で歯を見ることができる大掛かりな装置(顕微鏡)です。医科では、脳外科医など外科のドクターがオペで使用することもあります。
マイクロスコープは視野が非常に狭い上、歯が反転して見えるため、治療には非常に難度の高いテクニックが必要です。治療部位はよく見えたとしても、それを治す技術が伴わない歯科医も多いようで、「時々、自分でどこを削っているかすら分からなくなる時がある」という話も見聞きします。
また、非常に高価な器械なので、歯医者さんは代金の回収に必死にならざるを得ない=自費治療が売れないと元が取れないので、患者さんに高額治療をすすめたがる。自費の値段も高めに設定。という悪循環が生まれているようにも見えます。
歯科の器械を扱っている会社の営業マンから、「マイクロスコープは夢の装置」のような謳い文句を聞かされ、導入すれば治療技術が上がり、患者の満足度が上がって増患増収につながるのでは、という妄想を抱いて購入に踏み切る先生もいるようですが、歯科用マイクロスコープの倍率はせいぜい10倍程度。マイクロスコープも持っているのに、それより低倍率の拡大鏡を愛用している先生も多いようです。
私の 32年間の歯科医師経験から言いますと、マイクロスコープがないと治せない症例は、100本の内1本あるかないかです。そもそも歯科医師本人に患者さんの歯を救う気がなければ、マイクロスコープがあったところで、「あなたのこの歯が残せない理由」「この歯を抜かざるを得ない理由」を増やすだけです。
歯にひびが入っていても、C4と呼ばれるひどいムシ歯でも、たとえ何人もの歯医者に「抜歯になります! (だから抜いたところにはインプラントを...)」と言われた歯でも、医療者に本気で歯を救う気があれ ば、7割の歯は残すことができるのです。
昨今マスコミなどでは、マイクロスコープがあるのが良い歯医者さん、とされる向きもあるようですが、少し前はCT、その前はレーザー機器...のように、歯科の医療機器にも流行の波があります。「自分のために」ではなく、患者さんのために、患者さんの歯を残すために、治療技術を磨いて貢献できる歯科医が、一人でも増えてくれることを願ってやみません。